『津軽びいどろ』の生まれた青森県の多彩な「いろ」と「ひと」と「もの」を訪ねて取材、土地の魅力を発信していくコンテンツです。今回は青森の黄葉に焦点をあて、秋の名所とともに『津軽びいどろ』に宿る秋色の原点を巡っていきます。
十和田湖、奥入瀬渓流、蔦沼、弘前城、
それぞれの美しい色彩
雄大な美しい自然が広がり、10月中頃から山の頂より順々に多彩な秋色に彩られる青森。ブナなど黄に色づく広葉樹が多いため、青森の秋は「紅葉」ではなく「黄葉」とよばれる光景が特長となっています。また、標高や場所によって彩りの違いが楽しめることも魅力のひとつです。今回は、十和田湖、奥入瀬渓流、蔦沼、弘前城、それぞれの秋色についてご紹介します。
水の景色あってこその十和田
水の神様が住んでいると
言い伝えられる
清らかで透明な湖を水鏡に
眺めてこそ十和田の風情。
黄、赤、緑。3つの彩りが描く十和田の時間。
火山の噴火によって生まれた十和田湖は、自然豊かな外輪山に囲まれた美しい景勝地です。山の展望台からは湖の全貌が楽しめ、湖の周りには自動車道のほか遊歩道も整備されているため、ドライブはもちろん、動物や植物の様子を楽しみながらのハイキングも人気となっています。さらに、十和田湖ならではの愉しみ方であれば、湖上からの眺めもおすすめ。遊覧船のほか、より自然と一体になれるカヤックやパワーボードなどがあり、地上とはひと味違った絶景や、御倉(おぐら)半島といった通常では立ち入ることのできない保護区の景色を目の当たりにすることができます。
静かに満ちる湧き水を湛えた十和田湖は、波立ちの少ない鏡のような湖面に周囲の自然を映しだします。湖に映る空と雲の上を船で進んでいくと、前を向いても、振り返っても、湖面をのぞきこんでも、そこは色づいた木々に囲まれた世界です。まるで自分が、秋の世界の中心に浮いているかのような感覚。時期にもよりますが、黄葉のなかに紅や深緑がアクセントを加える景色は、ほかの場所にはない趣があります。 また、パワースポットとして人気の十和田神社では、願い事を書いた紙を湖に沈めて占う「おより紙」がありますが、これを沈める占い場も、水上からしか行くことができません。湖中のお賽銭には、平安時代や唐の時代のお金もあったようで、この美しい場所が、古くから信仰されていた神域であったことがうかがえます。
秋の粧いが広がる、幻想的な奥入瀬渓流。
秋の中に浮かぶのが十和田湖であれば、秋に包み込まれるのが奥入瀬渓流です。十和田湖からの水が注ぐ奥入瀬渓流は、川のすぐ側に車道と遊歩道が整備された、どなたでも散策しやすい立地も魅力的です。小径を包み込むように続く木のトンネルは、秋になれば葉の一枚一枚がやさしく色づいて、足元まで黄色く染まった幻想的な清流の風情を見せてくれます。風が吹き抜けるたびに降りしきる葉は黄金色の雪のようで、川面に佇む苔むした岩場にそっと積もっていきます。大小さまざまな葉は落ちてくる早さが違い、大きなものはゆっくりと、小さなものは風のかたちに沿って降り、そのリズムの違いも面白いもの。岩場の合間を滑るように流れる渓流はどこまでも透明で、ときに白く波立つ様子を、ときに流れていく秋の色を目で追いながら、時間を忘れて過ごすことができます。
輝く秋と、眠る秋。蔦沼が見せる朝夕の光景。
朝日に照らされて真っ赤に染まる紅葉が感動的で、JTBの「感動の瞬間(とき)」に選ばれるなど、近年話題となっている蔦沼。朝は低い位置から陽が差し込むため、木の幹まで明るく浮かび上がって森全体が輝いて見えるほどです。沼へと続く小径は黄葉が続き、葉は薄いガラスのような透明感を宿して、重なりが生み出す黄色の濃淡がさらさらと揺れます。また、10月の中頃にもなると霜がおり、朝日に溶けて輝きを増していくのです。 光のなかに生命力を感じる光景は、夕暮れが近づくほどにしっとりとした趣へ。水面には紫立つ空の色が映り込み、霞むような神秘的な色が木々の葉にも反射します。長い冬にそなえて、ゆっくりと眠りゆく秋の山。ひんやりとした風に冬の気配を感じる、一瞬の美しさがここにはあります。
言葉のいらないひと時
見上げた先から足元まで
やさしい黄色に包みこまれる
青森の秋のなかでは
「きれい」だけが浮かんで流れていく。
桜の紅葉。弘前城では秋のライトアップも。
春の桜が話題の弘前城は、秋にも見所がたくさんあります。弘前城の桜は“弘前式”という独自の方法で手入れされていて、秋になると鮮やかな紅色に染まるからです。桜並木が続く外堀はライトアップされているので、昼間だけでなく夜でもその彩りを楽しむことができます。例年、10月中頃からは公園内の紅葉ライトアップもスタート。城内に植えられた楓や銀杏が、とりどりの装いで秋の一夜を引き立ててくれます。
ギャラリー
今回登場したステキな場所は...
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- 約20万年前にはじまった火山活動によって形成されたカルデラ湖。中湖は水深が約327mで、日本では第3位の深さ。また、「十和田湖および奥入瀬渓流」として、文化財の特別景勝、天然記念物に指定されています。
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- 十和田湖畔・子ノ口から焼山まで約14km続く渓流。渓流添いにはいくつもの滝が点在しているため、「瀑布街道」とも呼ばれています。銚子大滝をはじめ、阿修羅の流れ、雲井の滝など、さまざまな景勝地が続きます。
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- 奥入瀬渓流を北へ進んだ八甲田山の麓、標高約460mの山奥にある秘境。ブナの原生林やさまざまな野鳥が生息する自然が残り、十和田八幡平周辺は国立公園に指定されています。自然遊歩道の基点に蔦温泉があります。