『津軽びいどろ』の生まれた青森県の多彩な「いろ」と「ひと」と「もの」、そして「こと」を訪ね取材、土地の魅力を発信していくコンテンツです。今回は弘前をテーマとして、津軽文化の源流となる歴史や風土を巡る旅をご紹介します。前編は、春の弘前城を中心としたノスタルジックな街歩きを紹介していました。後編は、青森三大ねぶたのひとつ「弘前ねぷたまつり」の意外な歴史を紐解きながら、弘前という街の歩みを辿っていきます。
青森三大ねぶた「弘前ねぷたまつり」から、
弘前という土地が見えてくる
前編でご紹介した春の桜やノスタルジックな街並みのほか、弘前にはもうひとつ、豊かな文化が受け継がれています。それが「弘前ねぷたまつり」です。
青森には大きく3つのねぶた(ねぷた)祭があり、青森市「青森ねぶた祭」・弘前市「弘前ねぷたまつり」・五所川原市「五所川原立佞武多」が“三大ねぶた”と呼ばれています。そのほかにも、地域ごとで愛される地域ねぶたがあるなど、ねぶたは青森の代名詞とも言える文化です。三大ねぶたはそれぞれ造形に個性があり、「青森ねぶた」は道幅の広さを生かして横に大きく躍動感のある姿、「五所川原立佞武多」は20m以上もの高さがある雄大な姿、そして「弘前ねぷた」は城下町の雰囲気を引き立てる扇形、という違いをもっています。
では、どうして弘前では扇形のねぷたが発展したのでしょうか。
見栄と誇り、弘前ねぷたに宿る武士の美学
城下町に根差した武士文化は、青森を代表するねぷた文化にも大きな影響を与えました。弘前ねぷたの起源をたどると、そこには武士たちの価値観──なかでも「見栄」と「喧嘩」の文化が色濃く映し出されています。
江戸時代、津軽藩に属する多くの武士が暮らしていた弘前において、「見栄」は、単なる虚勢ではなく、家格や覚悟を示すために欠かせない行為でした。祭りの場は、その力を誇示する絶好の舞台でもありました。当時、ねぷたに描かれた武者絵や鬼神の鋭い睨みは、相手を威圧し、見る者に一瞬で”力”を伝えるためのものでした。その勇猛な絵柄は、強さの表現であると同時に、高度な画力と美意識の結晶でもあったのです。
「石投無用」
ねぷたに石を、投げてくれるな。
わざわざ書いておかねばならぬ
弘前ねぷたのおもしろさ。
ねぶたと言えどもそれぞれ違う
津軽文化のおもしろさ。
さらに、弘前ねぷたを象徴する”扇形”にも、「武士たちの見栄」と「喧嘩」の歴史が刻まれています。かつて、ねぷた同士が衝突する「喧嘩ねぷた」が起きた際、人型では破損しやすく、修復に時間がかかりました。一方で、扇形は骨組みが頑丈で、壊れても直しやすいという利点がありました。「喧嘩してこそ」という武士たちにとって、これは極めて現実的な選択でした。
今日では「優美」「洗練」と評される扇形の曲線。その裏側に、かつての武士たちが重んじた実利と美学が息づいていると思うと、その姿も面白さもひとしおです。
津軽藩ねぷた村で出会う、
弘前ねぷたまつりの原風景
弘前ならではの風土を体感できる施設が『津軽藩ねぷた村』です。ここでは季節を問わず、弘前ねぷたまつりの世界に触れることができます。屋内施設のため、春の散策途中に立ち寄る先や雨の日の観光としてもおすすめです。
館内には、実際に運行された本物のねぷたが展示されています。間近で鑑賞できるねぷたからは、絵や色の多彩さだけでなく、和紙の重なりや筆の勢いまで感じ取れるほどです。LEDによる鮮やかで強い光とは異なり、蝋燭の灯りに近い柔らかな光に照らされているため、祭りの原風景に近いねぷたの姿を体感できます。
また、ここではねぷたを「見る」だけでなく、その文化に「触れる」ことも大切にされています 。お囃子の実演では太鼓や笛の音が間近に響き、来館者も太鼓叩きを体験することが可能です。ねぷたが生きた文化であることを、五感を通じて体感できます。
武士文化から始まった弘前ねぷたに関する貴重な資料も多数展示されているので、興味のある方はぜひ2階の「ヤーヤ堂」をチェックしてみてください。
ねぷたは暮らしそのもの。
弘前ねぷたまつりを次の世代へ
津軽の人々にとってねぷたは、毎年準備し、語り継いでいく「暮らしの延長」にあります。だからこそ『津軽藩ねぷた村』は津軽に受け継がれてきた技を「つくり、学び、伝える」ための体験を大切にしています。
「金魚ねぷた」も見どころのひとつ。最近は青森県外でも、祭りの装飾として目にする機会が増えてきました。その多くを制作しているのが、『津軽藩ねぷた村』に所属する職人の皆さんです。もともとは、江戸時代の富裕層に流行していた金魚を、庶民の暮らしにも取り入れようとして生まれたのだとか。いまでは干支や、現代的なデザインのものも企画されていて、新旧の文化がここから生み出されています。館内での絵付け体験もあり、旅の思い出づくりや、青森らしいお土産としてもぴったりです。
ほかにも、館内ではさまざまな民工芸の製作体験が楽しめます。
人々の願いを託し空に揚げられてきた「津軽凧」の絵付け、扇形ねぷたを身近なかたちにした「壁掛け扇ねぷた」づくり、りんごの町らしい素朴な音色の「りんご土鈴」、炎と土が生む表情を楽しむ「津軽焼」の絵付け、インテリアとしても人気の「下川原焼の鳩笛」や、表情豊かな「弘前こけし」、祝いの場を彩ってきた「吊りこま」絵付けなど、津軽の暮らしに寄り添ってきた多彩な工芸に触れられるのは、この場所ならではの魅力です。
迫力ある津軽三味線の生演奏を堪能できるほか、郷土料理が味わえる食事処や充実したお土産ショップもあり、津軽の文化を一日でぎゅっと満喫したい方は、ぜひ足を運んでみてください。
ギャラリー
施設紹介
津軽藩ねぷた村
弘前ねぷたまつりの迫力を一年中体感できる常設展示施設「弘前ねぷたの館」では、実際にお囃子の実演も行われ、祭りの熱気を間近に感じることができます。館内には、津軽三味線の生演奏を楽しめる「山絃堂」や、津軽地方に受け継がれてきた民工芸の制作風景を見学したり、ものづくりを体験したりできるエリアも併設。
さらに、国の登録記念物に指定されている日本庭園「揚亀園(ようきえん)」や、東北でも珍しい雪国の茶室「揚亀庵(文化財指定)」など、津軽の文化と美意識を感じられる空間が広がっています。
〒036-8332 青森県弘前市亀甲町61
津軽藩ねぷた村公式サイト
http://neputamura.com/

























