【読みもの】百色の青森 津軽びいどろを訪ねて

  • 百色の青森 津軽びいどろのガラス職人
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青森をつくる いろ ひと こと

『津軽びいどろ』の生まれた青森県の多彩な「いろ」と「ひと」と「もの」、そして「こと」を訪ねて取材、土地の魅力を発信していくコンテンツです。今回は青森の伝統工芸『津軽びいどろ』の継承を担う女性職人、瀧本 心美さんに、ガラスの魅力と青森ならではの表現についてうかがいました。

青森をつくるひと

青森の伝統工芸を継ぐ、津軽びいどろのガラス職人 青森の伝統工芸を継ぐ、津軽びいどろのガラス職人

ひとつの風鈴が導いた、ガラス職人への道。
職人という職業に、人生の全てをかけて。

未経験から職人の世界へ飛び込んだという、ガラス職人の瀧本さん。青森の四季を色ガラスで表現する『津軽びいどろ』の職人として、現在は主にインテリア品を手掛けられています。『津軽びいどろ』は青森県青森市にある北洋硝子でつくられる、青森県認定の伝統工芸品です。自社で原料を調合し作られる多彩な色ガラスが特徴で、かつては美術作品をメインに手掛けていました。現在はテーブルウェアやインテリア品、ファッションアイテムなど幅広いラインナップで、彩り豊かな「四季を感じるハンドメイドガラス」を届けています。オンラインショップのほか、雑貨店などでも広く取り扱われていて、瀧本さんが津軽びいどろを知ったきっかけも雑貨店だったのだとか。
「昔から職人仕事が好きで、ハンドメイドのものには心が惹かれます。雑貨屋さんで、なんて素敵なんだろうと目を奪われたのが津軽びいどろ海風の風鈴だったんです。そのときは津軽びいどろを知らなかったのですが、職人をめざそうと決めたときに“そういえば、あの風鈴はねぶたがモチーフだったな。青森でつくられているのかも”と思って、探し当てたのが北洋硝子でした」

自分らしく生きていく

ずっと憧れだった
「職人」という仕事
毎日がすごく楽しい
何をしていても嬉しい

物心つく頃には、和菓子や時計など、人が手を加えて創りあげたものに惹かれていたという瀧本さん。“職人”という職業の人は身近にいなかったものの、テレビなどで手仕事を見るたびに、鳥肌が立つほど感動していたのだそうです。
「はじめは、職人とは全く違う仕事をしていたんです。ものづくりに興味はありましたが、本当にやりたいことに挑戦するには勇気が出なくて。それに、職人というのは代々続く家系とか、限られた人しかなれないものだというイメージがありました。求人が出る仕事ではないんじゃないかなって。だから、職人になりたいとは、誰にも話したことがありませんでした」
ただ、そう思って働いていた瀧本さんでしたが、あるときふと「自分の人生、このままで終わるのは嫌だな」という気持ちが溢れてきたのだとか。そしてその時に思い出したのが、雑貨屋で出会ったガラスの風鈴だったのだそうです。
「調べてみると工場が青森にあって、ちょうど職人の求人も出ていました。これは運命かもしれないと思いました。それで、応募する前に、当時働いていた職場へ退職願を出したんです。面接では、いつからでも働けます!と言いたくて」

職人は、家系や特別な人がなるもの。
そんな固定概念を覆した、運命の職場へ。

職人の道へ進むことを決めた瀧本さんでしたが、退職したタイミングでは、なんと北洋硝子の求人がなくなっていたのだとか。 「どうしよう…と思って、ひとまず工場見学へ行きました。現場を見ることができたら、諦めがつくかもしれないなって。でも逆に、絶対ここで働きたい!という気持ちになってしまって。帰り際に、求人のご予定はありますか?と聞いたんです」
そこにたまたま居合わせた、当時の北洋硝子社長へ想いを伝えた瀧本さん。やわらかな印象と優しい口調からは想像もできないほど、熱い想いの持ち主です。その真っ直ぐな情熱は、相手の心を動かす力を秘めています。
「とてもユーモアのある方で。“求人をいつ出すかはわかりません。明日かもしれないし、出さないかもしれない。それでもよかったらハローワークをチェックしてくださいね”と。そうしたら、次の日に求人が出ていました。すごく嬉しかったです!」

青森の魅力に気づく

四季それぞれで
魅力が変わる青森
ガラスの色を通じて
その多彩さを思い出す

初めて北洋硝子の扉を開けた瞬間、ガラス工場ならではの大きな音に包まれて「ハッとなった」と瀧本さんは言います。大小10以上ある炉と、職人たちの熱気。想像していたよりも若い職人が多くて、女性職人もいて。そこで出会うひとつ一つが感動の連続でした。
「憧れだけで飛び込んだので、どんな場所かも、ガラスづくりはどういうことをするのかも知りませんでした。北洋硝子にはさまざまな技法がありますし、単に息を吹き入れるだけではないんだなと。入社後、技法の多さにびっくりもしたんですが、ガラスに触れられることが楽しくて仕方がないです」
瀧本さんが作しているのは、まん丸の一輪挿しです。入社してすぐはスピン成形のチームに入ったこともありましたが、女性職人の先輩に師事して、まず箸置きを、そして一輪挿しを担当するようになっていきました。4年ほどは師匠と一緒に仕事を担い、本格的に1人で任されてからは2年ほどになります。いまは、師匠と同じ手数で綺麗なものをつくれたときが、とくに嬉しいのだそうです。ガラスを焼いて、調整して…手数が少ないということは、短い時間で美しい商品を完成させられるということです。調整が多くなると、出来栄えが悪くなってしまうこともあります。

まずは、美しいガラスをつくれる職人に。
めざしたい姿は、未来の自分へ託して。

「とくに好きなアイテムは、下半分に模様があって上が透けているデザインです。どちらかというとつくりやすくて。それを、ばばばばっと仕上げられたときが嬉しいですね。今日は何個できたぞ〜って(笑)。難しいのは、ガラスの硬さや状況が、気温や湿度といった影響で日々変わることです。今日上手にできたからって、明日できるとも限らない。同じ方法でも上手くできないこともあるので、その日のガラスをうまく見極めなきゃいけない。楽しさでもあるんですけれど」
これからの目標は、会社が胸を張ってA品だといえるような、美しい商品をつくること。そのうえで、いつか自分の個性が出てきてほしい。そう話す瀧本さんは心から楽しそうで、ひとつの風鈴が繋いだ縁は、本当に運命だったのだな…と感じられました。
「好きな色は“オパール”ですね。津軽びいどろには3種類の白があるのですが、なかでも少し透明感がある白です。主役としても美しいですし、他の色を引き立ててくれる色でもあります。ガラスの原料は一見すると灰というか…ただの砂のようなのに、ガラスになると色や表情が鮮やかになるところも素敵ですよね」

心の揺らぎは、ガラスの揺らぎに。
職人として、ママとして、挑戦していく。

職人として日々研鑽を続けている瀧本さんは、プライベートでは4歳になるお子さんがいるママ。家族で協力し合いながら子育てをしつつも、大変なのは体力面です。
「子どもが生まれる前は、いくら動き回っても、いくら運転しても次の日はシャキッとできていたんですが…。これまでだったら、ちょっと休もうって思っていた時間が“よし、子どもと遊ぼう!”に変わるので、その差でちょっと疲れが出てしまうことは増えました。ガラスが楽しいから頑張っていきたいものの、疲れると、ちょっとしたことでイラッとしちゃうこともあって。そういう気持ちのままで職場に来てしまうと、ガラスを見極められないんですよね。焦りもガラスに出てしまう。きれいで可愛い商品を届けたいですので、本当にダメな時は思いきって休むようにしています」
心の揺らぎがガラスに出てしまうのは、先輩職人たちも同じなのだとか。焦りや力みがあると、模様が伸びたり捻れたりしてしまい、一度歪んでしまうと戻すのがとても難しくなります。
「子どもがいて大変なこともありますが、先輩の女性職人もママさんたちで分かり合えることも多いです。朝の送り迎えのために出勤時間を調整したりと、職場も子育てに寄り添ってくれます。それと、私は自宅で試作品を並べているんですが、子どもが何に興味を持っているか見ているととても興味深いです。子どもには重たいかな?とか、飲み口が広いかな?とか。ちょっとした行動から、商品づくりのアイディアがもらえるんです。お猪口はゼリーや果物を入れるとちょうどいいんですよ。いつか子ども用のアイテムをつくってみても面白いですね」

ギャラリー

今回登場したステキなひとは...

瀧本 心美さん

青森県南津軽郡藤崎町出身、1988年生まれ。2015年に北洋硝子へ入社し、職人の道へ。2019年には第一子となる男の子を出産。同年に産休より復帰して、職人業と子育てとを両立している。幼少期から憧れていた職人という仕事、なかでも最高峰だと感じるガラス職人になれたことが幸せ。先輩の女性職人とともに、主に一輪挿しなどピンブローでの作品づくりを担っている。

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