【読みもの】百色の青森 津軽びいどろを訪ねて

  • 百色の青森 べこもち
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青森をつくる いろ ひと こと

『津軽びいどろ』の生まれた青森県の多彩な「いろ」と「ひと」と「もの」、そして「こと」を訪ねて取材、土地の魅力を発信していくコンテンツです。今回は、青森・下北の郷土料理として根付いている「べこもち」について、その魅力をご紹介します。

青森をつくること

青森県下北でハレの日を祝う「べこもち」

“子どもの健やかな成長を願う、
色とりどりで模様も美しい郷土料理。

青森県の右上、まさかりのような形をした下北半島では、端午の節句やお祝いといったハレの日に「べこもち」というかまぼこ型の餅を食べる伝統があります。べこもちは米粉に砂糖を混ぜて練り合わせたもので、その素朴でやさしい甘さは、大人から子どもまで誰にでも愛される味わいです。今回は、本州ではあまり知られていない、このべこもちの魅力を深掘りしていきます。

かわいい、おいしい

食べるのがもったいない
かわいい色と模様たち。
ひとくち食べると
懐かしくてホッとする甘さ。

鯨に代わる“ハレの食ベもの”として根付いた
「くじらもち」。

カラフルでかわいいデザインのものが多く、青森の旅行雑誌やレシピ本でも人気のべこもち。ところが、もともとべこもちは“くじらもち”とも呼ばれていて、黒砂糖で練った茶色と白砂糖で練った白で渦巻き模様などを入れたものが定番でした。というのも、下北地方で昔からハレの日に食べられていたのは、鯨の肉を入れた鯨汁だったことに由来しています。青森では明治の頃から鯨の捕獲量が年々減っていき、昭和になると鯨汁を食べる習慣自体も薄らいでいきました。これは津軽海峡を挟んだ北海道の函館など、日本各地で同じことが起こっていて、捕鯨や鯨肉という文化そのものが衰退していったのです。そのため、鯨肉に代わるハレの日の食べものとして、白黒の色合いや食感が似ている「くじらもち(べこもち)」が生まれたと考えられています。うるち米ともち米を粉にして練理り、蒸しあげたお菓子は江戸時代からあったようですが、文化として根付いたのはこの頃でした。

白黒の「くじらもち」から、
華やかな「べこもち」へ。

端午の節句といえば、全国的には柏餅やちまきが食べられていますが、青森や北海道ではべこもちを食べる習慣があります。とくに風の強い下北地方では稲作が難しく、昔はお米が貴重な食料だったために、ハレの日の食べものとして餅はぴったりだったのかもしれません。模様の入れ方は各家庭によって多様化して、作り方は母親から娘へ、あるいはお姑さんからお嫁さんへと受け継がれていきました。いまでも端午の節句やお祭り、お盆などになると、神棚や仏壇に供えたりご近所に配ったりするように、下北地方ではべこもちが定着していったのです。

白黒のくじらもちが華やかなべこもちとなったのは、第二次世界大戦後、1960年代に町おこしの一環としてはじまった婦人会の取り組みがきっかけだったと言われています。花模様が入れられ、着色も彩り豊かになったくじらもちは、こうして「べこもち」と呼ばれるようになりました。べこ(べご)、とは東北や北海道の方言で牛という意味です。牛の背のようにこんもりと餅を重ねて模様をつくっていくためと、牛のように「子どもが丈夫に育ちますように」という願いを込めているためなのだとか。くじらもちに込められた「大物になるように」という願いと根本は変わらずに、明るく華やかなデザインへと進化したのです。

家庭の模様、地域の模様

親から子へ受け継がれる
べこもちのレシピ。
家によって、地域によって
違う個性が宿っている。

切り分けた瞬間、笑顔になれる。
花模様のべこもちづくり。

梅、桜、菖蒲、朝顔…四季の花柄が美しいべこもちは、食のアートとも言える繊細なつくりです。パッと見ただけではどうやってつくられているのか、想像することもできません。そんなべこもちを実際につくり、文化を体験できるのが、下北の名産品を広めるために建てられた「下北名産センター」です。植物や動物など100種類以上あるべこもちの模様のなかでも、代表的な花模様を教えていただけます。
教えてくださるのは地域の婦人会のお母さんたちで、家庭で伝えられてきた文化を今後も残していくために教室をはじめたのだとか。お母さんたちは明るくあたたかい話し方で、地域の見どころなどで会話が弾む楽しいひとときが過ごせます。予約をすれば誰でも気軽に体験ができるので、青森旅行の際にはぜひ立ち寄りたいスポットです。

べこもちは金太郎飴のようなイメージで、パーツを重ねて模様とした筒状の餅をコロコロと延ばして、ある程度細くなったら1センチ程度の厚さでカットしていきます。パーツの作り方や組み合わせ方で模様の出方が大きく変わるので、同じ型をつくっていても雰囲気が違って仕上がるのも面白いポイント。「べこもちに失敗はないよ」とお母さんがいうとおり、手作りならではの味わいがなんとも魅力的なのです。 完成したべこもちは冷蔵庫で1週間程度、冷凍すると半年近く保つそうで、青森では非常食としてストックする家庭もあるのだとか。調理方法は簡単で、電子レンジで加熱するだけでやさしい甘さとモチモチの食感が楽しめます。本格的に蒸しあげるのはもちろん、焼いてお醤油で食べても美味しく、シンプルな味わいだからこそ、味付けのバリエーションも広がります。
模様を組み上げるにはコツがいりますが、べこもちは家庭でも挑戦しやすい郷土料理です。家で過ごす時間に、お子さんと一緒に色や模様を考えてみるのも楽しそうですね。

べこもちのレシピ(1本分)

〈 材料 〉

  • もち米粉

    500g

  • 米粉

    500g

  • 上白糖

    200g

  • 熱湯

    250ml

〈 作り方 〉

  1. ボウルにもち米粉と米粉と上白糖を入れて、しっかり混ぜ合わせる
  2. ①に熱闘を満遍なく注ぐ
  3. やけどに注意しながらなめらかになるまで混ぜる
  4. ③の半量程度に食紅や粉末コーヒー、ココア、かぼちゃパウダーなどで色を付ける
  5. デコレート巻き寿司や金太郎飴のように、断面を想像しながら組み合わせる
  6. 平たく延ばした白色の生地で外側を包む
  7. ひとかたまりとなった餅を、直径9cm程になるよう手で転がして延ばす
  8. 1cm程度の厚みにカットし、ラップに包んで保存する

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