【読みもの】青森の地酒を、酒器と訪ねて地酒が教えてくれる一期一会の酒器選び

八戸酒類株式会社

第6回八戸酒類株式会社

雪と寒さが残る3月の青森県。別れと出逢いの節目を迎える相棒には、青森の地酒がぴったりです。四季を色で表現した青森の伝統工芸品「津軽びいどろ」の酒器で飲めば、さらに格別の味わいでしょう。

酒蔵の方から歴史やストーリーをおうかがいしながら、「津軽びいどろ」でお酒を楽しむ日本酒ライターの関友美がお届けする連載企画。第6回目は、ようやく寒さがやわらぎはじめた昨年5月に『如空(じょくう)』を醸す八戸酒類株式会社 五戸工場を訪ねました。

「八戸酒類株式会社 五戸工場」があるのどかな五戸町

八戸酒類株式会社 五戸工場は、奥州街道の宿場町・五戸町(ごのへまち)にあります。古くから馬産地として知られ、米、りんご、野菜と葉たばこ、畜産との複合経営による農業が主力産業ですが、昭和中期から工業誘致を進め、農工併進の町として歩んでいます。

そんな五戸町にある「八戸酒類株式会社 五戸工場」を訪れ、杜氏の上井裕文(うえいひろふみ)さんに酒蔵についてお話を伺いました。

「如空」空のごとし、という名に込められた柔らかな味わい

時代に翻弄された「八戸酒類株式会社 五戸工場」の歴史は、少し複雑です。この地で麹屋を営んでいた三浦家が、1889(明治22)年に酒屋へと転身し「菊駒」を醸し発展したのが起源となっています。戦争に伴い、企業整備令が発令されたことで、1944(昭和19)年に近隣エリアの5社(八戸市2社、五戸町1社、階上町1社、三戸町1社)が集まり統合され「八戸酒類株式会社」となり、八戸市の橋本家が経営の中核を担いました。

橋本家は、電話開通、八戸製氷創設など八戸の経済発展を語るのに欠かすことのできない存在で、八戸では「八鶴」という名の酒を造っていました(現在の八戸酒類八鶴工場)。5社のあった場所をそのまま支店として酒づくりを続け、五戸では長年「八戸酒類株式会社 五戸工場」として「菊駒」の酒を造り続けてきました。しかし菊駒酒造として三浦家が独立することになり、銘柄を使うことができなくなったため2007(平成19)年に代表銘柄を「如空」と改めました。

「如空」という名前は、現在の社長である九代目・橋本八右衛門さんの祖父にあたる七代目が書道を嗜む際の雅号に由来します。「空のごとし」と付けられた酒は豊かな青森県の食材や料理に負けない、しっかりとした米の旨みと心地よい余韻が感じられるお酒。のどかな五戸町から望む青空のように、伸びやかでやわらかい味わいが特長です。

日本酒づくりに魅せられ、天職に出会った杜氏のはなし

1998(平成10)年に八戸酒類に入社したという上井杜氏は、「20代後半だった当時、働いていた会社が廃業になり仕事を探していました。昔から日本酒好きだったこともあり、酒づくりの世界に憧れを抱き、地元八戸の八鶴工場に電話すると“うちは充足しているが、五戸工場なら…”と。翌日から冬季限定の蔵人になりました。蒸米の香り、モロミの発酵する音、手造りの技、搾りたてのお酒の味、すべてに感動し新鮮でした。それから早25年、色々なことがありましたよ」と微笑みを浮かべながら、優しく説明してくれます。

五戸工場から当時の菊駒工場(五戸)と男山工場(八戸)、八鶴工場(八戸)にも異動し、あらゆる場所で酒づくりを経験した後、統合していた「八戸酒造」が2005年独立、2008年には「菊駒酒造」も独立して、銘柄とともに多くのスタッフが旅立っていき、五戸工場の勝手を知る者はその頃まだ蔵人だった上井杜氏のみ。いやがおうにも頼られ、精神的にも技能的にも大きな成長を遂げました。上井杜氏は2013年に南部杜氏協会の杜氏資格を取得。翌々年から杜氏職に就き、現在では両工場の総括杜氏として活躍されています。2016年の「南部杜氏自醸清酒鑑評会」吟醸の部で全国第10位を獲得したのを皮切りに、これまで数々の受賞を飾っています。

「如空」は豊富で清らかな水、青森県産の酒米、八戸酒類の蔵で生まれたと言われる10号酵母にこだわった酒づくりをしています。蔵のすぐ裏手に五戸川を望む立地で、「秋口になると白鳥が飛来してきて賑やかな声が。酒づくりの準備をしながら、今年も来たな~って」と上井杜氏が語ります。日本百名山にも数えられる八甲田山系の伏流水を引く深さの違う3つの井戸水を使い分けます。メインは深さ80mから汲み上げる硬度40ほどの軟水。ある程度の深さがあるため温度が一定で、地上では氷点下を計測する冬でも変わらず10.5~11℃ほどと、酒づくりには最適で、「如空」の柔らかい口当たりには欠かせない存在です。

地道に形作ってきた「如空」の味を、次の世代とともに

蔵人5名の内、多くは五戸らしくニンニクやネギを生産する周辺の農家さんです。上井杜氏に続く酒蔵の2番手・頭(かしら)は40歳。もう1名の社員蔵人は日本酒が好きで入社したというまだ20代後半の若者。まるで昔の上井さんのようですね、と声をかけると「そうですね。嬉しいです」と顔をほころばせながらも、「時代も環境も変わりました。現代に適したように作業効率を考え、任せられるところは任せて、と心掛けてやっています。」と背筋を伸ばします。

酒蔵の1階で米を蒸し、2階にある麹室(こうじむろ)に引き込み麹米を作り、また1階にある大きなタンクに入れて…と決して設備の動線が良いと言えず、苦労も多いのでは?と問うと、今までさまざまな困難を超えてきた上井杜氏は、「願望を言えばキリがないですが、品質重視の現在のつくり方にできるだけフィットさせ整理しました。私一人で準備していた以前と比べれば、人も定着して随分楽になりましたよ。酒粕の需要も多く忙しいですが、地域の方たちに来てもらって、蔵人も手があけば手伝いみんなで作業します。皆さんに支えられています。」と笑って答えました。

Tsugaru Vidro selectedfor 如空

Tsugaru Vidro selected for 如空

「津軽びいどろ」で味わう
「如空」3種

日本酒の味わいは、飲む器によって変化します。口にあたる厚みや角度など形状だけでなく、器の色から受ける印象も気分に影響し、感じ方を大きく変える要因となるのです。赤の器は心を躍らせ、祝宴で金色の盃にお酒を注げば特別な気分になるでしょう。「津軽びいどろ」の酒器といえば、四季をイメージした鮮やかな色合いが特長です。

今回は、上井杜氏に“うちのお酒とあわせたい”という津軽びいどろ酒器を選んでもらいました。『如空 純米吟醸』『如空 特別純米酒 金ラベル』には「春空 盃(春空)」「ふくらぐらす ミニグラス そら」「盃コレクション 盃 黄金空」という3種類の酒器、『如空 林檎王国』には「津軽自然色りんご あおりんごカップ」です。


友美 「なぜこの3種類の酒器を選ばれたんですか。」

上井杜氏 「如空にちなみ、空と名の付く器を選びました。すてきな酒器ばかりだったので、自分がこんなに優柔不断だったのか…!と驚くほど悩みました(笑)。最終的に、青空、黄金空、春空…と形状が異なる3つ種類の器で、同じお酒でも味わいも変わり何度でも楽しめるものにしました。」

友美 「『春空 盃(春空)』と『ふくらぐらす ミニグラス そら』は、薄く繊細なガラスですが、『盃コレクション 盃 黄金空』は厚みがあってぽてっとしたフォルムが愛らしいです。津軽びいどろの作り方には主に3パターンあって、厚みも大きく変わってくるそうなので、お酒を飲むときの口当たりも変化しますね。『春空 盃(春空)』はフルーティな吟醸香を感じやすい形状で、冷たい『如空 純米吟醸』によく合います。」

上井杜氏 「『如空 純米吟醸』は、青森県産酒造好適米「華想い」を50%も磨いた、やわらかで繊細なお酒です。南部杜氏ならではの低温長期発酵で醸し出した深みのある味わい、やわらかな喉越しを感じて欲しいお酒です。」

友美 「一方『盃コレクション 盃 黄金空』の18金をあしらったおちょこは、色の通り『如空 特別純米酒 金ラベル』に合います。」

上井杜氏 「特別純米酒 金ラベルは、青森県産『華吹雪』を60%残したお酒。ほどよいふくらみと旨味があるお酒。よく合いそうです。18金使用というのが本格的ですね。」

友美 「津軽びいどろでは10金、18金、24金など試行錯誤した結果、18金が一番美しい輝きになり、採用したそうです。『如空 特別純米酒 金ラベル』と『盃コレクション 盃 黄金空』をセットにしてプレゼントしても喜ばれそうです。」

友美 「『如空 林檎王国』は、りんごの形をしたボトル。添えた『オイルランプ 赤りんご』にも似たかわいいボトルですが、中身はどんなお酒ですか?」

上井杜氏 「リンゴ酸高生産性酵母を使用し、当社独自の醸造法でつくった商品です。もちろんお米だけで出来ていますが、日本酒の概念にとらわれないお酒になっています。」

友美 「まるでリキュールかと思うほど甘くて、ほど良い酸味が効いています。アルコール度数も7~8%と高くないので、日本酒が苦手なかたでもチャレンジできそうな味わいですね!」


時代の荒波にもまれ、新たなスタートを切ってまだ7年を迎えたばかりの「如空」について上井杜氏からお話をうかがいました。青森県の風土を大切に、青森県産米を大切に醸して、ボトルの中に想いを詰め込み、着実に受賞を重ね全国に羽ばたこうとしています。また激動の時代に翻弄されながらも、“青森県の地酒”として一丸となり発信を続ける青森県の酒蔵を応援せずにはいられません。ぜひこの機に『如空』を手にとってみてください。

ギャラリー

春空

  • 盃(春空)
  • スリムグラス(春空)
  • ロックグラス(春空)
  • タンブラー(春空)

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ふくらぐらす

  • ミニグラス
    さくら
  • ミニグラス
    そら
  • ミニグラス
    みかん
  • ミニグラス
    しんめ
  • ミニグラス
    ひすい

盃コレクション

  • 盃 雲海
  • 盃 ねぶた夜祭
  • 盃 山若葉
  • 盃 黄金空

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津軽自然色りんご

  • あかりんごカップ
  • あおりんごカップ

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[ sake writer ]

関 友美 せき ともみ

日本酒ライター/コラムニスト/唎酒師/あおもりの地酒アンバサダー(第一期)/フリーランス女将/シードルマスター
北海道札幌市生まれ。
「とっておきの1本をみつける感動を多くの人に」という想いのもと、日本酒の何でも屋としてお酒の美味しさと日本文化の面白さ、地方都市の豊かさを伝える。また青森県酒造組合認定「あおもりの地酒アンバサダー」第一期メンバーとして、青森県の地酒の魅力を広くPRしている。

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