【読みもの】青森の地酒を、酒器と訪ねて地酒が教えてくれる一期一会の酒器選び

株式会社 竹浪酒造店

第5回株式会社 竹浪酒造店

日中の日差しが時折暖かく感じるものの、まだまだダウンジャケットが手放せない3月の青森県。ひらめやホッケをアテに、地酒の熱燗がより一層おいしく飲める時期でもあります。四季を色で表現した青森の伝統工芸品「津軽びいどろ」の酒器で飲めば、さらに格別の味わいでしょう。

酒蔵の方から歴史やストーリーをおうかがいしながら、「津軽びいどろ」でお酒を楽しむ日本酒ライターの関友美がお届けする連載企画。第5回目は、『岩木正宗』『七郎兵衛』を醸す竹浪酒造店を訪ねました。

370年を超える青森県最古の酒蔵・竹浪酒造店

竹浪酒造店は、天保2年(1645年)に越前国敦賀郡(現在の福井県敦賀市)から津軽平野の中央に位置する青森県北津軽郡板柳町に初代が移り住み、開業したことが始まりだと伝えられています。しかし2020年3月に惜しまれながらも幕を閉じました。その後同年12月に「どうしても竹浪酒造店を残さなければ」という熱い想いを持つ現オーナーからの出資を受けて酒造会社を新設しました。銘柄「岩木正宗」「七郎兵衛」を引き継ぎ、かつて長内酒造店が酒づくりをおこなっていたつがる市の跡地に移転し再スタートしました。

再始動した竹浪酒造店を訪れ、17代目であり杜氏(製造部長)の竹浪令晃さんに酒蔵についてお話を伺いました。

板柳を愛し、板柳に愛されてきた地酒蔵「岩木正宗」

創業から370年以上が経過した、青森県最古の酒蔵である竹浪酒造店。全国の酒蔵のなかでも、指折りの長い歴史を持つ蔵元として知られています。岩木川の東岸で酒造業と質業をはじめた初代。その後1807(文化4)年に八代目七郎兵衛が質業をやめ、酒造業に専念するとさらに多くの人から愛され、事業は軌道に乗りました。江戸時代に飢饉が相次ぎ、恩返しを兼ねて竹浪酒造店は炊き出しをし、近隣数カ所の村の人たちを救ったと、竹浪杜氏は祖母から聞き伝えられたそうです。

江戸時代の酒蔵は、徳川幕府から酒造株(しゅぞうかぶ)というものが定められ、株を持つ者だけが酒づくりを許されていました。しかし明治4年になり新政府より酒造株は没収され、明治13年には新たに免許の代金を払えば酒造業に参画できるようになりました。竹浪酒造店は引き続き酒づくりをするべく、明治29年に青森県酒類製造免許を取得。免許証には「第一号」と記されています。

「青森の変わり者」と異名を付けられながらも燗酒を追求する

竹浪酒造店は“熱燗”で冴えわたる味わいの日本酒を出す蔵で、華やかな冷酒向けの日本酒が多い青森県では異色の存在です。「『燗酒専心』をモットーに、本来の風味を生かしたお燗向けのお酒づくりを心がけています。香りが立ちすぎないスタンダードな酵母や麹を使い、完全発酵させることで甘くなくてしっかり旨味もあって、お燗すると花開くような味わいの酒。熟成にも耐えられる品質を目指しています」と竹浪杜氏は語ります。そのため原料米もあまり削りすぎず、精米歩合80%の純米酒、精米歩合60%の特別純米酒、45%の純米大吟醸酒の3種類が基本ラインナップです。「今後すこし余裕が出たら、米違い、精米歩合違いなど挑戦したいことはたくさんあるんですよ」、と力強く頷きました。

竹浪杜氏は東京農業大学で醸造を学び、食品会社で2年勤めた後、実家である酒蔵に戻りました。当時勤めていた杜氏が引退し、竹浪杜氏が製造責任者に就任しました。以前より精力的に営業回りをし、勉強のために他の酒蔵のさまざまな酒を飲んでみましたが、お酒が弱く少し飲んでは翌朝二日酔いになったり、身体がだるくなったり、と辛い思いを何度も味わったといいます。ところがある日、埼玉県の「神亀」の熱燗を飲み、「美味しい!コレならいくらでも飲めるぞ!」と感激しました。燗について勉強するようになって「お燗を飲む方が、冷酒に比べて身体に負担が少ないこと」を知り、「料理もよりおいしく食べれるなぁ」と実体験を通して発見を繰り返し、自身の酒づくりを徐々に見直しながら、2008年頃に現在のスタイルが確立されました。

「和を以て貴しとなす」おいしい燗酒の裏にある新メンバーの調和

移転後の酒づくりは、竹浪杜氏と川口昭明さん、沢田夏歩さんの全3名のスタッフでおこなわれています。竹浪杜氏以外は、酒づくり未経験です。川口さんは、2020年4月に閉店した板柳の老舗菓子店「川口あんぱん」の次男で、竹浪杜氏と同級生で幼馴染です。沢田さんは板柳町の隣町・鶴田町出身者で、沢田さんの母が熱心な「岩木正宗」ファンだったご縁から、旧酒蔵では商品出荷のアルバイトをしていました。当時の仕事ぶりを見て、竹浪杜氏が移転作業前に声をかけたのだそうです。

蔵の仕事のすべてを3人で担っています。「沢田さんはラベル貼りが上手いんですよ。一本ずつ貼っても高さが全部揃って、すごいんです」と竹浪杜氏が言うと、沢田さんは「褒められると曲がります。邪念が出てくるのでしょうかね」と照れ笑いするのを見て、みんなで笑い合います。すべてが未知数、という過酷な環境下にありながらも、3人の朗らかで仲の良い雰囲気はこちらが癒されるほどでした。

再スタートの苦悩とひとつずつ向き合い解決する現場の姿

竹浪酒造店の再スタートは、決して順調なものではありませんでした。2020年12月に株式会社竹浪酒造店を設立し、酒造道具・酒造機器を集め、酒造免許を取得し、原料米を購入して、現在の地で酒づくりを再開しました。免許取得までなんとかこぎつけたものの、肝心の原料米の確保が難しかったのです。本来酒づくり用の米は、前年の4月頃には購入量を確定します。酒米農家さんたちが、その分の苗を買い育てる計画があるからです。申し込み時期をとうに過ぎていたことや新会社というリスクも相まって取引きが難しく、駆けずり回り、2月下旬になんとかお隣の秋田県で余っていた米を分けてもらうことができました。

日本酒づくりは、菌が勝手に増殖し暴れるのを防ぎ、酒に必要な菌を低温ですこしずつ大切に培養するため、寒い時期に仕込むのが一般的です。造り始めてから搾って瓶詰めするまでに、最低でも2カ月は要します。「2月末、と思いのほか遅いスタートになってしまいました。建物は断熱が効かないし、とにかく暖かさとの戦い。前回とは場所も気温もなにもかも違う。今回は50石(1石=一升瓶100本)仕込みましたが、来期はさらに増やしたい。環境は把握したから、対策を考えなくては。考えることが山ほどあります」と、竹浪杜氏は真剣な表情を浮かべました。

Tsugaru Vidro selectedfor 七郎兵衛

Tsugaru Vidro selected for 七郎兵衛

「津軽びいどろ」で味わう
「七郎兵衛」3種

日本酒の味わいは、飲む器によって変化します。口にあたる厚みや角度など形状だけでなく、器の色から受ける印象も気分に影響し、感じ方を大きく変える要因となるのです。桃色の器は優しく心を彩り、青の器に注げば爽やかな気分でお酒を愉しめることでしょう。「津軽びいどろ」の酒器といえば、四季をイメージした鮮やかな色合いが特長です。

今回は、竹浪杜氏に“うちのお酒とあわせたい”という津軽びいどろ酒器を選んでもらいました。お酒は『七郎兵衛 純米吟醸 吟風五拾五純米吟醸』『七郎兵衛 純米吟醸 美山錦五拾五純米吟醸』『七郎兵衛 特別純米酒 華吹雪六拾特別純米酒』の3種類、酒器は「爽華 金彩盃 花霞」「爽華 金彩盃 星夜」と「盃コレクション 盃 桜吹雪」「盃コレクション 盃 夜霧」の4種類です。


友美 「『爽華 金彩盃 花霞』と『盃コレクション 盃 桜吹雪』、さくら色の2種類の酒器を選ばれたのはなぜですか。」

竹浪杜氏 「竹浪酒造店では、お燗をおいしく飲んでいただけるよう平盃をオフィシャルグッズとして出しています。その中身に印字されている七郎兵衛マークがピンク色なんです。うちのお酒の色っぽさを表現するのに、デザイナーさんが当ててくれた色なので今回もあわせて、ピンク色の器を選びました。」

友美 「『七郎兵衛 純米吟醸 吟風五拾五純米吟醸』は、2年間の熟成を経てしっかり味わいが乗っていますが、さっぱりとした吟風というお米を使っているせいか、軽やかさも感じます。ピンク色のあたたかみを感じる器で飲むと、より一層熱燗が柔らかく感じておいしいですね。」

友美 「さくら色とは対照的な、黒色の『爽華 金彩盃 星夜』『盃コレクション 盃 夜霧』も選んでくださいました。なにかイメージはあるのですか。」

竹浪杜氏 「星空っぽくて素敵だったから選びました。キャンプでお燗が飲みたいな~とずっと思っているんです。天気の良い日にテントの外で、湯煎で熱燗をつけて…。移転してきてここでやろうと思ったんですけど、日本海側からの西風がすごく強くて、焚き火どころじゃないんですよね(笑)」

友美 「それに移転からの日々は慌ただしくて、なかなか自由な時間がとれないですよね。竹浪さんがこの『金彩盃 星夜』を持って、キャンプで熱燗が飲む日が早く来るようわたしも願っています。」

竹浪杜氏 「そうですね。少し落ち着いたら、好きな場所で燗をつけて、夜空を見ながら飲みたいなぁ。」

友美 「今回ご紹介くださった『七郎兵衛』と『岩木正宗』の銘柄の違いはなんですか。」

竹浪杜氏 「『岩木正宗』は板柳に蔵があった時に、裏手を流れる津軽富士・岩木山に源を発する岩木川にちなみ命名された昔ながらの銘柄です。『七郎兵衛』は15年ほど前に誕生した新しい銘柄。3代目から12代目が代々襲名していた名前をつけています。『岩木正宗』は問屋流通OKで、『七郎兵衛』は地酒専門店をはじめ直取引のお店のみ取り扱い可能なお酒です。」

友美 「やっぱりお燗は、胃も心もあたたまり、ホッと落ち着いていいですねぇ。冷酒とはまた別の良さがあります。」

竹浪杜氏 「僕もお燗ならいくらでも飲めちゃいますねぇ。」

友美 「ぬる燗くらいならお気に入りのどの器でもいいですし、津軽びいどろは、いくつも耐熱酒器を出しています。その中から選んで、同じ青森県でつくられた『七郎兵衛』の飛びきり燗を味わうのもいいですね。」


地元板柳から移転を余儀なくされ、それでもファンの方たちに求められ、再スタートして挑戦し続ける竹浪酒造店。370年もの長い歴史を背負った酒蔵が、形を変えながらも存続したことは青森県民にとっても、日本酒ファンにとっても嬉しいことです。ぜひこの機に『七郎兵衛』と『岩木正宗』を手にとってみてください。

ギャラリー

爽華さやか

  • 金彩盃 花霞
  • 金彩盃 星夜

購入はこちらから

盃コレクション

  • 桜吹雪
  • 夜霧

購入はこちらから

次回の「青い森の日本酒と津軽びいどろ」は、3月更新予定です。時代に翻弄されながらも、地域の代表として青森県の酒造業界や経済界を背負ってきた酒蔵。日本酒『如空』を醸す八戸酒類五戸工場さんでお話しをうかがいます。

[ sake writer ]

関 友美 せき ともみ

日本酒ライター/コラムニスト/唎酒師/あおもりの地酒アンバサダー(第一期)/フリーランス女将/シードルマスター
北海道札幌市生まれ。
「とっておきの1本をみつける感動を多くの人に」という想いのもと、日本酒の何でも屋としてお酒の美味しさと日本文化の面白さ、地方都市の豊かさを伝える。また青森県酒造組合認定「あおもりの地酒アンバサダー」第一期メンバーとして、青森県の地酒の魅力を広くPRしている。

  • ピックアップアイテム 暮らしにおすすめしたい津軽びいどろ

    Read More

  • 百色の青森 津軽びいどろの景色を訪ねて

    Read More

  • 十人十色の手しごと 職人たちが込める想い

    Read More