【読みもの】百色の青森 津軽びいどろを訪ねて

  • 百色の青森 津軽海峡
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青森をつくる もの ひと こと

『津軽びいどろ』の生まれた青森県の多彩な「いろ」と「ひと」と「もの」を訪ねて取材、土地の魅力を発信していくコンテンツです。今回は青森の北端に位置する「津軽海峡」の冬景色についてご紹介します。

青森をつくるいろ

白、青、紺、碧・・・津軽海峡の冬 白、青、紺、碧・・・津軽海峡の冬

深い雪に閉ざされた
冬の海が秘める厳しさと美しさ

三方を海に囲まれた青森のなかでも、“青森の海”としてとりわけ有名な津軽海峡。夏は海水浴もできる海も極寒の冬となれば人影はなく、海へ続く雪の上には動物の足跡しか見あたらない場所となります。今回はそんな冬の津軽海峡を、竜飛岬のほど近く「袰月海岸」からの眺めとともにご紹介します。

青森の冬は、ふたつの静かな
色彩でできている。

青森の冬は、ふたつの色でできています。ひとつは、白。地図に載っているような大きな道でさえ、いとも簡単に通行止めにしてしまう青森の雪。小径も雪解けまでは幻の道になるらしく、生活に必要な場所が遠くからでも分かるほどです。
もうひとつは、青。雪影の水色と、青森を包む海の青です。青森の人々は古くから航海技術に優れ、北海道や北方との交易の要を担ってきました。海洋を渡る技術は漁業の技術がルーツとされており、海は津軽びいどろの原点にもあたるガラス製の“浮玉”とも交差する縁深いものです。

波の音だけが聴こえる

自分がほんとうに
ここに立っているのか
わからなくなるほど
雪と海とでできた世界。

青森湾や陸奥湾は比較的訪れやすい場所にありますが、青森と北海道に挟まれた、太平洋と日本海とを結ぶ津軽海峡の冬景色を眺めてみようと思ったら、一筋縄ではいきません。普段は開けた海岸線も、冬になれば辺りは一面深い雪景色。本州北端に位置する冬の津軽海峡からの眺望は、また、四季の移り変わりを強く実感できる場所でもあります。冬場に海岸近くまで行ける場所のひとつに、津軽の国定公園でもある「袰月海岸」があります。電車で向かうのであれば、JR津軽線今別駅からタクシーでの移動となります。雪道の運転に慣れているなら、青森駅から陸奥湾沿いを北上するルートでも向かえます。近くにはキャンプ場もあり、夏場は海水浴場として磯遊びや釣りで賑わう海岸も、冬となれば人ひとり居ません。前日に降り積もった雪に閉ざされた、足跡ひとつない「袰月海岸」の駐車場は、まるで一面に真っ白な絨毯を引いたかのように広がっています。

厳しい印象とは異なる、
美しく輝いた冬の津軽海峡。

雪をかき分け進んだ駐車場の先にある、海岸線を見晴らせる高台からは、正面に津軽海峡、右手には陸奥湾、左手には龍飛岬を一望できます。有名な歌の一節から想像していたような、重く灰色の景色にはほど遠く、そこに広がるのは意外なほど明るい海。紺色に透き通ったエメラルドグリーンを足した海に、多くの人々が抱き持つ「冬の津軽海峡」のイメージも少し変わるかもしれません。海の向こう側には、思ったよりも近くに北海道が見えます。青函の交流は縄文時代にまで遡るとも言われていますが、確かにこの距離であれば、海を渡ろうとした人々の気持ちもわかります。すぐ先に、まだ知らない何かが待っている・・・そんなときめきさえ感じられる景色です。海岸から延びる高野崎には小さな灯台があり、この場所は、いまでも海峡をゆく船の拠り所となっています。

海に秘められた青
きっと寂しい海だ、と思っていた。
誰も知らない宝物を
見つけたような気分になった。

海に秘められた青
きっと寂しい海だ、と思っていた。
誰も知らない宝物を
見つけたような気分になった。

海岸へ下りるための階段は雪の吹きだまりになっていて、深いところでは腰まで埋もれるほど。手すりにつかまりながら慎重に下りていくと、晴れた日であれば遠くに見える美しい山々を背景に、穏やかな波が心地よく響いてきます。なだらかな岩場が立てる波はさらさらと繊細で、いつまでも聞いていられる音色です。一方で、風雪のなかで厳しさを増すのも北国の海。天候によっては何日も、猛烈な地吹雪とともに岩場に打ち付ける激しい荒波に見舞われて、海岸に近づくことさえできないこともあります。津軽海峡は、冬の青森が併せもつ厳しさと優しさ、その両面を見せてくれる場所なのです。

風、波、光。
自然の一つひとつがつくりだす芸術。

灯台を挟んで反対側、ふたつの赤い太鼓橋「潮騒橋」「渚橋」が見える海岸までは、少し探険家のような気分で雪をかき分けて進みます。海から吹きつける潮風で堅くしまった雪は、踏みしめるとキュッと音をたて、強い風は雪の表面をうっすらと削って、複雑で美しい模様を描きます。雪を通して風の姿が見えるようで、少し不思議な気持ちになる光景です。太鼓橋へ近づくほどはっきりと見えてくるのは、緑を帯びた深く青い海、岩場や影が生み出す紺色、波に反射する透明な光。自然がつくりだす色彩のコントラストは、この冬の海をガラスに映しとった津軽びいどろ工房の「津軽海峡」シリーズの色と重なり合います。きっと何年経っても工房「津軽海峡」シリーズを見れば、この冬のダイナミックな景観を鮮明に思い出せるのはないのでしょうか。

今回登場したステキな場所は...

  • 龍飛岬、下北半島、北海道が一望できる津軽国定公園。夏は青い海、冬は碧い海が美しく、夏場は磯遊びや釣りなどでにぎわう。※冬場は雪深く、管理者も不在です。ひとりでの訪問は避け、無理はしないようにしてください。
  • 袰月海岸から延びる崎。小さな灯台があり、漁船などの道標となっている。高野崎の先端を下っていくと岩場を繋ぐ「潮騒橋」「渚橋」があり、視界のすべてが海となる。天候によっては橋の上まで波が被るので注意が必要です。
  • 津軽半島の最北端、津軽海峡に突きでた岬。名前の由来はアイヌ語にあるともいわれ、青森と北海道との結びつきを感じさせる。袰月海岸の左手、西側にみえる切り立った岬は龍飛崎で、龍飛崎も袰月海と同じく国定公園の一部。