陽ざしが暖かくなって、虫たちが目覚めて土の中から顔を出す。冬に立ち止まっていた生命が、春の訪れを感じて動き出す頃を「啓蟄」といいます。啓蟄は春分のひとつ前に来る節気で、本格的な春へ向けて歩み出す、そわそわするような喜びが感じられる時期です。読み方は「けいちつ」で、啓=ひらく・解放する・導く、蟄=冬ごもりで虫が穴にこもる・ひきこもる・隠れる、という意味をもっています。現在では3月5日〜19日頃にあたり、人にとっても、啓蟄の頃は新しい世界へ一歩ふみだすチャンス。じっと我慢していた冬を乗り越えたとき、あたたかくて楽しい春が待っていると信じて、4月からの新生活・新年度の準備をはじめていきたいですね。
日々の食べ物だと、蕗の薹・うど・たらの芽・ぜんまいなどの山菜が旬の食材となります。天ぷらやおひたしが食卓に並ぶと、春が来たなぁという気分もひとしお。日本酒がお好きな方にとっては、冬酒の「しぼりたて新酒」は呑み納め、春酒の「うすにごり」は呑み頃ですね。春をめいっぱい味わうのであれば、春色の盃で、テーブルに彩りを咲かせたコーディネートがおすすめです。
そして外の世界では桃や菜の花が咲き、窓の外は彩り豊かに。古来日本では「咲」と書いて「えむ」と読んでいたのだそうで、その意味は「笑む」と同じものになります。和菓子も華やかなものが増えるので、ティータイムも明るく華やぎますね。美味しい春の食卓と、笑みを誘う春の景色。啓蟄の頃、あなたが歩む毎日が、そんな愛おしいものでありますように。