百穀を潤し、芽吹かせる春の雨。夏の手前にしとしとと降る雨は「百穀春雨」と呼ばれていて、穀物の種まきに適したこの頃が「穀雨」にあたります。新暦では4月20日頃で、桜を過ぎて藤が咲きはじめる、気温の高まりを実感する時期です。花の盛りに曇りや雨の日が続くのはすこし残念ですが、そのやわらかな雨が緑を芽吹かせて、秋の実りを育んでいるのなら、雨も四季の美しさだと感じられそうです。また、この頃に新生活がはじまる方も多いことでしょう。うまくいかないことがあったときには、1年を潤すための穀雨だと思って、ひと息ついてみませんか。
夏も近づく八十八夜。穀雨の終わり、立春から数えて八十八日目は農業にとって最適な日とされていて、お茶摘みや田植えがはじまります。なかでも、八十八夜に摘まれたお茶を飲むと、無病息災でいられると言われるほどです。これは冬に蓄えられた栄養分が春に若葉へと行き渡るためで、新芽を摘んだ「一番茶」は縁起物でもあります。そのほか、ヨモギの草餅を食べて無病息災を願う地域もあり、穀雨を受けて茂る、緑輝く自然の力をいただく伝統が、日本各地で受け継がれています。
二十四節気では、穀雨を過ぎると次は立夏で、まもなく夏が訪れます。雨に霞む草花、ほのかに冷えた空気…春の名残を、緑の一服とともに愉しめたら素敵ですね。