【読みもの】青森の地酒を、酒器と訪ねて地酒が教えてくれる一期一会の酒器選び

桃川株式会社

第3回桃川株式会社

全国に先駆けて紅葉の見頃を迎える青森県。11月にはすでに初冠雪を迎え、八甲田山あたりでは雪化粧の紅葉を見られることも。冬の知らせを聞きながら、温かい食べ物と一緒にしっぽり味わいたいのが青森県の地酒です。四季を色で表現した青森の伝統工芸品「津軽びいどろ」の酒器で飲めば、さらに格別の味わいでしょう。

酒蔵の方から歴史やストーリーをおうかがいしながら、「津軽びいどろ」でお酒を楽しむ日本酒ライターの関友美がお届けする連載企画。第3回目は、『桃川』『杉玉』を醸す酒蔵「桃川」を訪ねました。

旧百石町(ももいしまち)を代表する酒蔵「桃川」の酒

青森県東部に位置するおいらせ町。2006年に上北郡百石町と下田町とが合併して発足されました。酒蔵「桃川」がある旧百石町は、東部を太平洋に面していてサケ、ホッキ貝、カレイ、ヒラメなど古くから漁業が盛んです。平坦な地形を生かして米、苺、長芋の生産もおこなわれています。

百石漁港まで約2kmという場所にある青森県最大の酒蔵「桃川」を訪れ、取締役 生産本部長の小泉光悦さんに、酒蔵について話をお伺いしました。

酒蔵「桃川」の歴史は古く、江戸時代から続く百石村(現おいらせ町)の酒蔵を、1889(明治22)年に八戸で呉服屋を営んでいた初代・村井幸七郎が買収したのが始まりです。
蔵の近くを流れる清らかな百石川(奥入瀬川)の伏流水を使って酒づくりしていたので「百石川」の名から取って字を変え銘柄『桃川』と命名されました。
地域に愛され、順調に製造量を増やしていった『桃川』ですが、太平洋戦争の頃に地域の酒造の統廃合が行われ、『桃川』の製造元も他の蔵と合併。その後、様々な酒蔵の整理、淘汰の末に残った数少ない銘柄の一つ『桃川』の名を冠し、現在のかたちで「桃川株式会社」が立ち上がったのは1984年のことでした。百年以上に及ぶ酒蔵「桃川」の歴史はこうして現代に受け継がれています。

5万石の夢を託した仕込蔵「王松蔵」

小泉さんの後について最初に訪れた「王松(おうしょう)蔵」は酒蔵、というよりは製造工場といった風情。思わず「うわぁ大きい…」と呟き、高い屋根を見上げました。この「王松蔵」は1973(昭和48)年落成された鉄筋コンクリート造の建物で、著名な建築家であり日本酒研究者の篠田次郎氏が設計を手がけた当時最新鋭の設備でした。オイルショック前の清酒最盛期には、3万7千石(1石=一升瓶100本)ものお酒を製造していたため、5万石の製造を目指し建てられたものだといいます。現在の『桃川』は約1万石製造と、時代とともに量こそ減っているものの、ニーズに合わせ手間ひまかけてつくられた吟醸酒などの特定名称酒が数多く増えています。

「いい酒は朝が知っている」に込められた品質第一の想い

1980(昭和55)年ごろ、地方の酒蔵では珍しく『桃川』では広告代理店の力を借りて「いい酒は朝が知っている」というインパクトあるキャッチコピーを制作しました。いち早くからテレビCMなどの大々的な広告活動をおこなってきたので、聞き覚えがある方も多いかもしれません。

「品質第一」をモットーに掲げ、お酒それぞれに適した設備を選択してきた酒蔵「桃川」。その結果、名杜氏を多く抱える南部杜氏組合がおこなう「自醸清酒鑑評会」では全国で唯一71回連続優等賞を獲得し、記録を更新し続けています。「全国新酒鑑評会」では12年連続金賞を受賞しました。全国新酒鑑評会での金賞は、“連続受賞は困難”といわれている中での驚くべき快挙です。全国でもたった5社しかないという偉業を達成。小泉さんは「昔から弊社は、手作りする部分と機械に任せる部分を上手く使い分けること。人の育成に注力すること。時代を先読みし、社内に知識と技術を積み重ねること。この3つにこだわってきました」と語ります。長年に渡る努力と挑戦の結果、さまざまな評価を得ているのでしょう。

職人の手作りと醸造機器。ハイブリッドな酒づくりの先駆け

「桃川」のお酒づくりは、大きく分けて2種類あります。2tや4tなどの大きなタンクで仕込み、広くみんなに日常的に親しんでもらう純米酒、本醸造酒、純米にごり酒。もうひとつは吟醸酒などの手作りで少量生産のプレミアムなお酒です。手法も使用する機械も違います。製麹機など早くから自動化に着手した酒蔵「桃川」では、機械化された大きな仕込み方法が多いのだろうと予想していましたが、手仕事の多さに驚かされました。機械を使うところは使う。でも目的のため最善だと思えば迷わず手作業を選ぶ。これは杜氏である小泉義雄さんのこだわりだといいます。そして、ステンレス製の道具も増えた昨今ですが、昔ながらの木桶、杉の木蓋や竹の道具をいまだに多く使っているのも印象的。「全国的に修理できる職人さんが減ったため、大切に手入れしながら使用します。桃川の財産のひとつです」と小泉さんは誇らしげに語ります。木桶なら自然な呼吸によって適切な湿度が保たれたまま麹室(こうじむろ)やタンクまでお米を運ぶことができます。これも杜氏の長年の経験が支える知恵といえます。中には既存の道具だけでなく、竹など自然の素材を使って蔵人が手作りした道具もありました。

最近では消費者がさまざまなタイプの日本酒を求めるようになり市場に流通しています。桃川でも、技術研鑽の意味合いと需要に対応する意味合いとで、600kgタンクを使用した試験醸造など小さな仕込みも増えています。酸が出やすいワイン酵母や白麹を使用したり、青森県内外の多様な米や酵母を取り入れてみたり、チャレンジを続け細やかな動きに神経をとがらせ知識と経験を身に付けることで、機械を使用した大きな仕込みにも反映できるのでしょう。

酒づくりはワンチーム。各所に「一級酒造技能士」を配置

社員は全体で約70名。製造部門は約20名、営業部門は営業所もすべて合わせて約20名、物流・製品出荷部門が約25名で、冬場にはパートさんも加わり繁忙期を乗り越えます。酒造に携わる20名中14名が国家資格である「一級酒造技能士」の資格を習得しています。小泉さんによると「かつては季節ごとに岩手県から来てくれる杜氏集団に酒づくりを頼ってきましたが、高齢化も進む中で、当社では『蔵人全員が一級酒造技能士習得』を掲げ、社員の酒造知識を深めることに努めてきました。女性の酒造技能士が誕生したのも日本で最初だったのかもしれません」と振り返ります。職人の世界である酒造はそれまで、指示を受けて持ち場にあたる、という風でしたが、知識を得ることで各作業の意味を深く理解し、各蔵人の「いい酒を造りたい」という意識が増したそう。また日々のデータを収集して分析しみんなの前で発表する、という機会を年1回設けました。利き酒の勉強会もおこない、自社の酒造技術を蓄積するよう努めています。

昭和41年に入社した現杜氏・小泉義雄さんは、酒蔵「桃川」で多くを学び、南部杜氏として酒づくりを長年支えてきました。そして、「一級酒造技能士」の習得だけでなく、「青森県卓越技能者」表彰、厚生労働省「ものづくりマイスター」認定(平成29年)、など、数々の受賞を重ねてきました。そして、令和元年には青森県庁から「青森県褒賞」の受賞を受け、酒蔵「桃川」だけでなく、青森県や酒造業界にとってもかけがえのない存在となっています。

現在では、そんな小泉義雄杜氏のもとで、原料処理、麹づくり、酒母育成、もろみ管理、上槽、ブレンド調合…と工程ごとに「一級酒造技能士」が配置されています。「一ヵ所だけに得意な人がいてもダメなんです。全ての工程が大切で、それを杜氏が掌握することで、ようやくひとつの良い酒が生まれます」と、小泉さんはチームワークの大切さを強調しました。

時代を先読みした数々の挑戦

酒蔵「桃川」は常に時代の先を読んで取り組んできました。その一つが、1970(昭和45)年に全国ではじめて「大吟醸」を商品として販売したことです。「桃川」が大吟醸を開発した当時、鑑評会用につくられることはあっても、一般消費者は「大吟醸」がなんなのか、どれほどまでに手間ひまをかけた商品なのか知る由もありませんでした。それでも「いつか必要とされる時が来る」と将来を予見し、消費者の成長を促し、技術を研鑽してきました。一方、現在では主流になりつつある低アルコール酒も、なんと1979(昭和54)年にすでに発売していたのだといいます。

1992年には、アメリカ・オレゴン州に現地法人 MOMOKAWA SAKE, LTD. を設立。アメリカ向けに本格輸出を開始しました。1997年には、中小規模の酒蔵ではいち早くアメリカ工場での製造本免許を取得し、酒づくりをスタートしました。海外輸出に有利に働くだろう、と2002 年には「ISO9001:2000」を取得しました。現在は「HACCP」取得に向けて動いています。味わいの追求だけでなく、安心安全なお酒を届ける、という姿勢が多くの人々から「桃川」が愛され続ける理由なのかもしれません。

Tsugaru Vidro selectedfor 桃川

Tsugaru Vidro selected for 桃川

「津軽びいどろ」で味わう
「桃川」2種

日本酒の味わいは、飲む器によって変化します。口にあたる厚みや角度など形状だけでなく、器の色から受ける印象も気分に影響し、感じ方を大きく変える要因となるのです。桃色の器は優しく心を彩り、青の器に注げば爽やかな気分でお酒を愉しめることでしょう。「津軽びいどろ」の酒器といえば、四季をイメージした鮮やかな色合いが特長です。

今回は、小泉さんに“うちのお酒とあわせたい”というお気に入りの津軽びいどろ酒器を選んでもらいました。『桃川 大吟醸純米 華想い』には「さくらさくら sakura 盃」、『桃川 ワイン酵母仕込み吟醸純米』には「枡酒杯 花めぐり カタクリ」です。


友美 「まずは『大吟醸純米 華想い』。どうして『さくらさくら』の酒器を選びましたか?」

小泉さん 「金色ラベルの『大吟醸純米』は、日本で最初に大吟醸を発売した桃川が自信をもってお届けする商品です。青森県産の『華想い』という酒米を使っているので、桜色の可愛らしい津軽びいどろがぴったりだと選びました。ロンドンでおこなわれた『International Wine Challenge2021』で金賞受賞した自慢の逸品です。海外でもご好評をいただいています」

友美 「香りが華やかで、味わいはまろやか。非常に上品なお酒ですね。桜の花びらを散らしたようなピンクの器が、柔らかい味わいにぴったりでかわいいですね」

小泉さん 「続いて『桃川 ワイン酵母仕込み吟醸純米』は、私たちの新しい商品です。ワインも日常的に飲むようになった現代の人たちは酸を好むようになりました。そのことを意識してチャレンジしたお酒です。ラベルに合わせて爽やかな青い酒器を選びました。おちょこではなく洋風の器で飲んで欲しいので、スリムなグラスを選びました」

友美 「酸っぱいというよりは、リンゴ酸の軽やかな酸を感じます。甘すぎずスッキリしすぎず、ちょうど良いですね」

小泉さん 「糖と酸のバランスを“糖酸比”といいますが、値を研究してつくりました。これ以上甘さを抑えてスッキリさせると、ただ苦くて辛いだけの酒になります。総合的なバランスが重要です」

友美 「洋食とも合いそうです。青く爽やかなラベルからお酒を注ぎ、雪のような青空のような…この津軽びいどろのグラスで飲むとさらに良いですね。『枡酒杯 花めぐり カタクリ』はグラスと枡とがセットになっていますが、枡はおつまみ入れとして使ってもおしゃれです」


長年蔵人として製造に携わり、営業も経験した後でふたたび製造側から会社全体を支える小泉さんから、酒蔵「桃川」の奥深い歴史、そしてチャレンジすることの重要性と継続することの重みを教えていただきました。これからの酒蔵「桃川」の新しい取り組みに期待は高まる一方です。ぜひこの機に『桃川』を手にとってみてください。

ギャラリー

さくらさくら

  • sakura 盃
  • sakura 蕎麦猪口
  • sakura グラス
  • sakura こぼし酒盃

購入はこちらから

枡酒盃 花めぐり

  • カタクリ
  • ハマナス
  • ツユクサ
  • 雪花(セッカ)

購入はこちらから

次回の「青森の地酒を、酒器と訪ねて」は、12月更新予定です。
馬にゆかりが深い五戸町で日本酒『菊駒』をつくり、生産量の98%が青森県内で消費されるというまさに地産地消の「地酒」を製造する菊駒酒造さんを訪れます。

[ sake writer ]

関 友美 せき ともみ

日本酒ライター/コラムニスト/唎酒師/あおもりの地酒アンバサダー(第一期)/フリーランス女将/シードルマスター
北海道札幌市生まれ。
「とっておきの1本をみつける感動を多くの人に」という想いのもと、日本酒の何でも屋としてお酒の美味しさと日本文化の面白さ、地方都市の豊かさを伝える。また青森県酒造組合認定「あおもりの地酒アンバサダー」第一期メンバーとして、青森県の地酒の魅力を広くPRしている。

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