【読みもの】青い森の日本酒と津軽びいどろ日本酒がもっと美味しくなる盃選び

第6回カネタ玉田酒造店

  • カネタ玉田酒造店

    青森県弘前市茂森町81

まだ冬の寒さが残る3月の青森では、まだ見ぬ春に心弾ませる日々が続きます。これからやって来るまばゆい桜の季節を、食卓から先取りできるのが、青森が誇る伝統工芸品である「津軽びいどろ」と「地酒」です。

酒蔵の方から歴史やストーリーをおうかがいしながら、よりおいしくお酒を楽しむための器選びや味わいの変化について日本酒ライターの友美がお届けする連載企画。第6回目は、『華一風』を醸す『カネタ玉田酒造店』です。

津軽藩士から造り酒屋に転向、という異色の歴史

もしかすると、青森に住む方以外には『華一風』という酒の名前は、あまり馴染みがないかもしれません。しかし蔵の歴史は古く、創業は1685年であろうと言われています。というのも、カネタ玉田酒造店は、津軽藩の藩士だった玉田善兵衛が酒造業を委任される形で、酒造を開始したのが起源とされています。古文書にも“1685年にはすでに酒づくりをしていた”と記されていることから、そのスタートはさらにもっと古い可能性があるのです。 その後本家が『カネ玉』の名で、分家が『カネタ』の名で酒づくりを続けていましたが、本家の廃業を機に、分家だった8代目(現社長である9代目・玉田陽造氏の父)が跡を継ぐことになります。

1993年まで毎年津軽杜氏に冬期間限定で来てもらい、酒造りをしていましたが、事情により困難になり、やむなく玉田陽造社長みずから蔵元杜氏となりました。今回お話をうかがったのは、その社長の長男・10代目にあたる玉田宏造さんです。

現在つくっている銘柄は、華やかな香りが特徴である『華一風』のほかに、『じょんがら』『斬』、そして分家の時代から造り続けている『玉川』と、弘前にあった酒蔵が廃業する時に名前を継承した『蔵人』の主に4つがあります。

“地酒とはなんだろう”という原点に立ち返った酒

酒づくりに使う麹米(こうじまい)には、青森県の『華想い』『華吹雪』の主に2種類。一部のみ青森県産の食用米『まっしぐら』を使用しています。以前は山田錦など他の米も使用していたそうですが、「地酒というからには、この土地のものをすべて使ったものが良いのでは」と考え、米だけでなく、酵母も青森県のもののみを使用する体制に切り替えました。

カネタ玉田酒造店で現在つくっている酒の約70%が純米吟醸タイプのものです。純米吟醸とは米と米麹だけでつくられ、且つ吟醸造りという時間と手間をより多くかけて、吟味したつくり方をすることによって、吟醸香(ぎんじょうこう)という、独特の華やかで甘いような香りがするのが特徴です。特に『華一風』は、名前どおりの華やかさと丸みを帯びた甘味から、若い女性からの人気も獲得しています。

歴史と伝統を守る父・未来を見据える息子

東京農業大学で醸造を学んだ宏造さんですが、すぐに蔵を継ぐと決めたわけではありませんでした。大学卒業後、東京の食品などの総合問屋で働いていたある日、玉田社長からの電話を突然受け、ともに酒づくりをすることになりました。仕込みの計画や内容を決定するのは玉田社長、それを実際に管理しているのは宏造さんですが、名刺の肩書は“見習い杜氏”。

「父が元気に杜氏をやっているうちは、きっと認めてもらえないでしょうね(笑)。父とは目指す酒のスタイルが違うんです。父は甘めのお酒、僕は、旨味がしっかり感じられるけどキレのあるお酒。僕自身お酒もご飯も大好きだから、食事をしながら飲む。ここに違いが出てくるのかな」「青森はもともと甘いお酒が多い土地です。食べ物がすごくしょっぱいですし、何にでも醤油をたくさんかける傾向にある。でも食生活も少しずつ変化しているので、お酒のニーズも変化を見せていると思っています」と宏造さんは、分析して語ります。

反対されて諦めるばかりでなく「つくりたい酒のコンセプトを提案するんですけど、必ず断られるので、勝手にやっちゃうんです。社長からはものすごい怒られはしますけど、完成した酒は理想どおりのものができるので、今ではそうしています」と社長への抵抗も試みています。分析どおり、飲んだ人からの感想は上々で、スタート当初は周囲から批判された『華一風』が、今では確実に支持を得ているため、歴史を守る父と果敢に攻める息子との、親子の攻防はこれからも続くのでしょう。

今回ご紹介いただくのは、『華一風 特別純米酒』と『斬 純米吟醸 肴ラベル』です。

五感を刺激してくれる鮮やかな酒器

友美「器を変えて、飲み比べをすることってありますか?」

宏造さん「普段はあまりしません。でも、実はわが家には『津軽びいどろ』がいくつもあるんです。びいどろの器によって味わいは、大きく変化しますよね」

友美「そうなんですね!『華一風』に合わせて、『花紀行 桜流し』や『ふくらぐらす さくら』などピンク色の器を選びました。今回の器はご自宅にありますか?」

宏造さん「春らしいですね。これは持っていない物だなぁ。形状によっても味わいが変わりますが、こうして器の見た目が違うと、気分も違ってきますね」

友美「そうですね。無色透明な器もステキですが、カラフルな器が食卓にあれば、五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)を刺激してくれると、様々な論文で唱えられています。つくづく人間の味覚って不思議ですよね」

宏造さん「そうすると器やテーブルクロスもそうだけど、ラベルの色や名前も影響するのかもしれませんね」

ひと足早く、食卓の上に“弘前さくらまつり”を

友美「弘前で桜、といえばやっぱり弘前城公園の“弘前さくらまつり”ですね」

宏造さん「そうですね。なんでも、特産品であるりんごの木の剪定方法を、鑑賞しやすいよう桜の木の剪定にも応用し活かしているそうで、見上げたときにいくつもの層になって見えるのが美しいんですよ」

友美「その影響でしょうかね。木の本数も多いのでしょうけど、弘前の桜は、より豪華な印象を受けます」

宏造さん「さくらまつりの開催もそうですが、弘前の桜はもう少し先の、4月下旬頃から5月にかけて咲き始めます」

友美「まだ見ぬ桜を心待ちにしながら、まずは食卓に花が咲くよう2種類の器を選びました。『花紀行 桜流し』と『ふくらぐらす さくら』は同じ桜色の『津軽びいどろ』ですけど、宙吹き、型吹きとそれぞれ製法が違うので、まったく異なった雰囲気を持っています。そこに『氷結』という名のオイルランプも添えました。表面のぽこぽことした凹凸を雪に見立てていて、とても可愛らしいんですよ」

飲み比べてわかる多様な日本酒の楽しみ

友美「『華一風』は香りも甘味もあって、全体的な味のボリュームがあるけど長時間飲めそうです。これは良い意味で、不思議なお酒ですね。おちょこよりも、背が高くて口が広がった酒器セットのぐいのみで飲む方が、香りが生かされて良いかもしれません」

宏造さん「香りも味も全然違いますね。おちょこは『斬』の方が合うかな」

友美「わかります。キレがある味わいをそのままに飲むことができますね」

宏造さん「にしんの切り込み、漬物、旬のものであればタラ鍋とかが欲しくなりますね~」

友美「考えただけでお腹が空いてくるし、想像だけでお酒が進みますねぇ…」

『津軽びいどろ』と『華一風』の共通点

友美「現在の生産量は400石(1石=一升瓶100本)とのことで、今後もさらに『華一風』のファンが増えると思いますが、つくる量を増やす予定はありますか?」

宏造さん「いえいえ、今で精一杯です。蔵人は自分も入れて4名だけ。他にはりんご農家を営んでいる方が、収穫を終えた11月から、枝切り作業が始まる3月中旬までの間だけ酒づくりに来てくれています。だけどうちの酒づくりは、10月初旬からゴールデンウイーク明けまでなので、人員不足の時期はどうしてもメンバー1人ずつの負担が増えるのを避けられなくて。11~12月は、今より5kg痩せていたんですよ」

友美「それは大変です!『津軽びいどろ』も酒づくり同様、完全な手づくりでつくられています。だから職人さん個々によるところが大きいため、ムリに増産することなく、10年や20年の時間をかけて徐々に現在のスタイルを確立したそうなんです」

華一風 × 花紀行 桜流し 盃・一輪挿し、片口 桜流し、盃 桜流し

宏造さん「うちの場合だと、蔵の敷地や人員は限られているので、もし生産量を増やすなら、つくりの期間を延長するしかありません。気温が低い冬季以外に酒づくりをするには、蔵全体に冷蔵設備を整える必要があり、そう簡単な問題ではありません。今後どんな状況になるかもまだ見えないですから、今は、毎年目の前の酒づくりに集中することだけ考えようか、と。」

友美「より多くの人に『華一風』を味わって欲しいけど、ムリはせず時代に沿ったおいしい酒をこれからもつくり続けてもらいたいです」


本家の伝統を受け継いだときと変わらず、しっかりと地に足をつけて、重ねてきた長い歴史を繋ぐことや品質を優先すること。そこに10代目である宏造さんの一歩先を見据えたチャレンジ精神が加わり、カネタ玉田酒造店の“青森の地酒”はこれからも未来へと紡がれていくのでしょう。

ギャラリー

  • 花紀行 桜流し

    桜流し 盃
    桜流し グラス
    桜流し 一輪挿し

  • 春空

     
  • 盃コレクション

    片口 桜流し
    盃 桜流し

  • ふくらぐらす

    片口 さくら
    盃 さくら

[ sake writer ]

関 友美 Seki Tomomi

日本酒ライター/コラムニスト/唎酒師
日本酒アドバイザーや飲食店勤務を経て、現在は「とっておきの1本をみつける感動をたくさんの人に」という想いのもと、初心者向けのイベントやセミナーの主催、記事や物語の執筆、日本酒専門店の女将業務などを通して、様々な角度から日本酒の美味しさと日本文化の豊かさを伝えている。