【読みもの】百色の青森 津軽びいどろを訪ねて

  • 百色の青森 盛田庄兵衛
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青森をつくる いろ ひと こと

『津軽びいどろ』の生まれた青森県の多彩な「いろ」と「ひと」と「もの」、そして「こと」を訪ねて取材、土地の魅力を発信していくコンテンツです。今回は江戸時代中期に酒造りの起源をもつ、七戸の酒蔵『盛田庄兵衛』で日本酒を醸す「杜氏」のこだわりについてご紹介します。

青森をつくるひと

南部杜氏の技術と科学の知識、「盛田庄兵衛」の日本酒造り 南部杜氏の技術と科学の知識、「盛田庄兵衛」の日本酒造り

近江商人をルーツとした、青森で250年続く酒蔵。
冬場=農業休閑期の仕事として盛んになった南部杜氏。

盛田庄兵衛が酒蔵を構える青森県七戸町は、八甲田山の東にあって、清らかな雪解け水による農業が盛んな地域です。盛田庄兵衛のルーツを辿ると、もともとは江戸時代中期に、近江商人であった先祖がこの地で商いを行ったことが起源であったと言われています。実は、酒造りを担う「杜氏」という職業が東北で根づいたのは、近江商人の影響がありました。近江商人は現在の滋賀県を拠点にする商人たちのことで、船に荷を積み、東北でもいち早く商いを行っていました。彼らは技術や学びも運んでいて、東北に新しい知識を広めていきます。いまでも杜氏といえば「南部杜氏」の名が思い浮かびますが、これは近江商人が醸造技術を伝え、農業が落ち着く冬場の出稼ぎとして、南部地方で盛んになったのだそうです。

家伝手造りの酒

ひたすら実直に
基本に徹して永年不変に
技術を応用するときも
まず理というものがある

八甲田山の清らかな雪解け水で醸す、穏やかな日本酒。
伝統の技術を受け継ぎ、基本に忠実な酒造りを。

一時期は5000人以上いたとされる南部杜氏は、冬場になると日本全国に散らばって、青森だけでなく南は広島や山口まで赴いて酒造りを担っていました。盛田庄兵衛を支えてきたのも南部杜氏たちで、11代目となる現在の取締役CEO 盛田平治兵衛さんも、幼い頃から南部杜氏とともに過ごしてきたのだといいます。
「自転車の乗り方から酒造りまで、いろいろと教えてもらいました。当時は住み込みの方も居て、家族のように過ごしていましたね。私が杜氏として独り立ちするまでずっとお世話になり、自社杜氏だけとなってからも、さまざまなアドバイスを頂いてきました。盛田庄兵衛の創業者である近江商人のモットーは“三方よし”です。世間よし・買い手よし・売り手よし。飲む人を和ませ、社会に求められる“ほんとうにうまい酒”を伝えるべく、正直で、基本に忠実な酒造りを皆で行ってきたんです」

盛田庄兵衛がめざす“ほんとうにうまい酒”。平治兵衛さんが大切にしているのは、酒造りの基本となる「一水・二米・三麹」へのこだわりを守ることです。とくに水は、日本酒成分の8割に影響を与えるといわれるほど。代わりがなく、八甲田山系高瀬川の伏流水で適度なミネラルを含んだ軟水は、穏やかな余韻と旨みをもつ酒を造りだしてくれます。
たとえば代表銘柄≪駒泉≫は、水の良さが素直に伝わる、蔵の原点とともいえる一本です。平安時代に詠まれた“駒の里(馬の数が人よりも多いところ)に、清らかな水が湧いている”という意味の和歌に由来して名付けられ、重厚で穏やかな風味が青森の人たちに長く愛されています。さらにお米も青森県産にこだわり、地域とともに酒造りを進めてきました。八甲田山由来の麹を使った銘柄もあるなど、土地の味・土地の魅力を高めるための商品開発も多く手掛けられています。

作り手としては科学的に、発想は技術屋的に。
“視点を変える”コラボレーションでの商品開発。

そうした新しい取り組みを進める平治兵衛さんは、もともとは東京農業大学で醸造を学びながら、国税庁醸造試験場で研究員を務めた経歴をもつ理系の杜氏です。南部杜氏の伝統的手法や青森の恵みといった「基本に徹する」ことを軸として、科学的な知見に職人の経験や技を加味した酒造りを展開されています。
麹という生き物を扱う杜氏は、温度や湿度による変化など、感覚を研ぎ澄まして判断をする仕事。日本酒造りにはさまざまな工程がありますが、タイミングが僅かにでも異なれば、すべての工程が台無しになってしまうこともあります。科学だけでは完成しない、けれども、杜氏の経験だけでは生まれない。新しい酒造りが盛田庄兵衛の魅力であって、人々を愉しませる驚きへと繫がっているのです。さらに、平治兵衛さんの酒造りは、あらゆる視点をもつことから始めることも多いのだとか。 「飲む人はもちろん、お酒を販売するお店や料理屋、米をつくる農家、ボトルのデザイナー…視点が変われば、発想も変わるものです。対話やコラボレーションを通じて、これまでにない商品を追求することは、とても楽しいことですね」

日照不足や水不足、日照り、虫害…酒造りにはさまざまな困難がありますが、“人と人とが繫がる時間”に愛される日本酒にとって、コロナ禍は大きな困難となりました。需要は半分ほどに減ってしまい、危機的な状況だったといいます。盛田庄兵衛が開発力を高めたのはこの時期で、需要開発のために、季節のお酒や限定ラベルを次々と発表していったのです。発表までのスパンが短いほど目新しさがあり、酒蔵やブランドへの注目度は上がります。それは、販売店を応援することにも繫がる取り組みでした。新ブランド≪朔田≫が誕生したのもコロナ禍がきっかけでした。
≪朔田≫ブランドには≪朔田≫≪さく田≫≪SAKUTA≫の3シリーズがあります。≪朔田≫は主にシリーズの定番酒が、≪さく田≫には暮らしの中でおしゃれに愉しむ日本酒が、≪SAKUTA≫は新しい発想・挑戦で、海外を意識した日本酒がラインナップしています。ラベルも個性的で目に留まるデザインが多く、味わいのバリエーションは言わずもがな。限定酒はすぐに完売してしまうほどの人気です。

青森の水と光の実

まっしぐら、華想い
華吹雪、華さやか
美しい土地で育った米の
名に恥じぬ日本酒を

短い期間で、求められる日本酒を創り上げる。
つねに新しい商品開発で“三方よし”を実現するために。

平治兵衛さんがこんなにも開発を続けていける理由。それはやはり、杜氏としての経験と科学的な知見を併せ持っているからです。日本酒は麹菌の発酵のさせ方によって、脂質や酸といった酒質、つまり味わいが変わっていきます。平治兵衛さんは酒質の数値をある程度想定しながら、めざす味わいの醸し方を考え、カタチにしているのだそうです。OEMでの依頼にも、だいたい一度の試作でお応えできるのだとか。まさに職人技です。津軽びいどろの色づくりも、職人が素材の配合を想定しながら新色を創り出していくため、業種は違えど同じ志・職人魂のようなものを感じました。
新商品の企画やOEMの依頼には、3〜4ヶ月で応えられるそうで、そのスピードは想像以上です。それでも販売店やお客様のことを想って、もっと効率よく“ほんとうにうまい酒”を届ける方法を追求し続けている平治兵衛さんは、まさに“三方よし”を旨とする近江商人の末裔なのでしょう。

盛田庄兵衛≪七力≫ × 津軽びいどろ の平盃。
八つの色が綾なす“ほんとうにうまい日本酒”への想い。

津軽びいどろは盛田庄兵衛とのご縁をいただき、≪七力≫とのコラボレーションが実現しました。≪七力≫は伝統的な発酵技法にこだわりながら、盛田庄兵衛の特約販売店とともに創り上げた銘柄で、七つの特約店のみが取り扱うことから≪七力≫と名付けられました。彫刻刀で刻んだような文字は味わいをイメージしたもので、力強く切れのよい味わいが特徴です。
その味わいに合わせる盃は、七つの特約店に津軽びいどろを加わえて「八つの力がひとつになる」をテーマに、津軽びいどろの原点とも言える「津軽グリーン」をイメージした色合いと七色の彩線が流れるデザインに。まるで、瑞々しい緑の稲が広がる夏の水田を思わせる仕上がりとなりました。揺れる稲の隙間から垣間見える、七戸の景色のような…米の旨みを味わえる≪七力≫にふさわしい表現です。フォルムは、酒の香りが広がる平盃に。これからも広がり続けていく“三方よし”な未来を思わせます。≪七力≫にも麹菌を変えたラインナップや限定ラベルがありますが、津軽びいどろもガラスを通じて、未来の取り組みを応援していきたいと思っています。

コラボレーション盃はこちら >>

ギャラリー

今回登場したステキなひとは...

盛田 平治兵衛 さん

盛田庄兵衛11代目当主、あおもりマイスター。青森県上北郡七戸町出身。 東京農業大学在学中に、国税庁醸造試験場で研究員として日本酒の研究にあたる。 卒業後は盛田庄兵衛を継いで11代目当主に。伝統技術を守りながらも、新しいアイディアで商品開発を続けている。在学中は「日本酒一筋であるために」との頑固さで日本酒の酒造免許しか取ろうとしなかったが、日本酒の可能性を広げるためにも、ワインやウイスキーも取っておけばよかったかも…と笑う、親しみやすい一面も。

http://www.morishou.co.jp/

Instagram 盛田庄兵衛 朔田 蔵元(@komaizumi_morishou)

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